水商売の女性はナンパに応じるのか 〜限りなくゼロに近い即〜

12月某日
 
 
 
 
その日は会社の忘年会だった。今年3度目、しかも水曜日。憂鬱でしかなかった。翌日も仕事が早いため、僕は1次会だけ顔を出して帰る事にした。23過ぎ。僕は乗り換えのため梅田で下車する。地下街を歩く。ふと、前を見る。タートルレディ発見。僕は今日ナンパをする気なんて毛頭もなかった。モチベーションの低さは態度や表情に現れる。女性はそれを敏感に察知する。今の僕では彼女をオープンできないだろう。都合の良い言い訳を並べてみる。違う、それらは彼女をナンパできない言い訳にはならない。僕がナンパから逃げるための言い訳でしかない。ポケットからガムを取り出す。イヤホンを鞄に直す。やってから後悔しろ。僕は自分を奮い立たせた。彼女の後ろにつき、歩調を合わせる。人混みを抜けた、今だ
 
 
 
「こんばんは、お姉さん」
 
 
 
笑顔を見せる。目が合うが反応はない。少しの無言の後、「なに?」強めの口調で彼女は返した。「自分でもわからない。でもお姉さんに話しかけないといけない気がして」なにそれと彼女は鼻で笑う。「真面目に言ってるんだ。ちょっと聞いて」彼女の前に出て立ち止まる。彼女も歩みを止めた。「上手く言えないけど、今お姉さんに話しかけなかったら一生後悔すると思ったんだ。だってもう二度と会えないかもしれないじゃん」身振り手振りを使い、真面目なトーンで僕は言った。彼女は笑った「そんなくさいセリフ初めて言われた」オープンした。「もっと聞きたい?」主導権を握った僕はその後も捲し立てた。28歳キャバ嬢。プライベートで友人と飲んだ帰り。オープンしてからは反応は良かった。5分程和みシフト、「じゃあさ、一杯だけ飲みに行こうよ。いつもお客さんにお酒作ってるんだろ?今日は俺が作ってあげるよ」「いいよ。一杯だけね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
バーへ移動する。カウンターに座る。ビールで乾杯。彼女は仕事柄、男から会話を引き出すのが上手かった。僕もルーティーンを駆使し和みを図るが、気付いたら主導権が彼女に移っている。流れを変えなくてはいけない。僕は彼女の過去について掘り下げた。男性遍歴、家族構成、幼少期ー、彼女は中学を卒業してからこの世界に入っていた。両親は彼女が幼い頃に離婚しており、父親の顔はほとんど知らないらしい。苦労してきたようだった。過去に付き合ったのも店のお客さんのみ。彼女の過去を知れば知るほど、僕はどう接していいのかわからなくなった。
 
 
 
ビールグラスを空け彼女は言った「私の事ばかり話してる。なんか変な感じ」彼女からのIOIはいくつか確認できていた。僕は仕掛けた。「そうかな。もっと聞きたいくらいだけど。グラス空いちゃたね。一杯だけって約束だったからそろそろ出ようか」良い雰囲気だったが僕はそう切り出した。彼女はどこか残念そうな顔をしながら言った「そっか、わかった」僕は立ち上がり、ゆっくりとマフラーを巻く。そしてコートを着ながら言った「その顔は飲み足りない顔だね。わかった。さっきは俺が誘ったから、今度は君が俺を誘ってよ」彼女は「えっ」と驚いた表情をみせたが、すぐに切り返した「そっちこそ、本当はまだ私と一緒にいたいんでしょ」僕も負けずにネグをとばす「素直じゃない誘い方だね。仕方ないからもう一杯だけ付き合ってあげるよ」彼女は笑う。「素直じゃないのはどっちよ」「お互い様かな。じゃあ行くよ」僕は彼女の手を引き、コンビニへ向かった。お酒を買い、そのままホテルで飲む作戦だ。コンビニへ向かう途中、彼女は予想外の事を口にした。
 
「うちに来る?どうせ終電ないんでしょ」
 
僕は考えた。この言葉の真意は?下心を確かめているのか。答えが出ないまま、無言の僕に彼女は続けた「家すぐそこだから。来たいなら、おいで」いたずらに微笑む。僕もやっと口を開く「どっちにしろお酒買わないとね。とりあえずコンビニ行こう」コンビニでお酒を買う。さて、どうする。答えは決まっていた。「部屋汚くないよね?俺綺麗好きだから。もし汚かったらすぐ帰るから」彼女は言う「こう見えても結構綺麗にしてるから。散らかしたら掃除させるからね」こんなやりとりの末、彼女の家へ。犬を飼っていた。「へー、飼い主に似るって本当だね」「それどういう意味よ」彼女をネグする。ソファーに座り、ワインを開ける。再び和む。部屋着を貸してもらう。「帰る気ないでしょ」そう突っ込まれつつも「うん。朝まで付き合ってくれるんでしょ?」「はいはい」彼女はお酒が強かった。お酒がほとんど飲めない僕は限界だった。「少し横になっていいかな」彼女は了承した。僕は寝たふりをする。彼女はテーブルを片付け、部屋の電気を消し、シャワーを浴びに行く。ドライヤーの音が止まる。僕の寝ているベッドへと入って来る。「ごめん、起こした?」謝る彼女を、僕は後ろから抱きしめた。首元にキスをする。耳を舐める。声を漏らす彼女。唇を奪う。ノーグダ、即。
 
彼女はとても女性らしい身体つきをしていた。身体は僕の好みだった。翌日も彼女を求めてしまった。それは間違いだった。彼女はベッドの上で僕に告白をした。僕はそれを受け入れなかった。もう会えないと言われた。恋人以外の女性と長期的な関係を築くのは難しい。そう感じた日だった。
 
 
 
 
 
----------------------------------------------
 
 
 
◾︎総評
 
 
 
オープナーは決して良いものではなかった。総ては最初の彼女の反応が物語っている。ではなぜオープンしたのか。ひとつは彼女をその場で止めた事。これで僕と彼女が向かい合う形になり、彼女が僕の姿をしっかり認識した。もうひとつは運命的な出会いだというオープナー。実際は言葉はそんなに重要ではない。大切なのは、いわゆる雰囲気やオーラというもの。普通のサラリーマンが偶然会った女性に真剣な顔で運命を説く。そんな状況下に置かれた彼女に僕はフックしたのだろう。
 
 
 
バーでの和み。会話のポゼッションは彼女が上回っていた。彼女は会話のプロだ。男の扱いにも慣れている。男がどうすれば喜ぶのかも知っている。彼女のルーティーンに嵌ってはいけない。そう考えた僕は彼女の過去について引き出した。あまり良い環境で育ってこなかった彼女は、ほとんど自分の話をしたことがなかったという。過去を聞くことで相手の大切にしている価値観が見えてくる。僕は彼女が普段相手にしている男たちとは違う人間を演じなければならなかった。
 
 
 
コンビニは向かう途中、彼女からの家打診。彼女は何を期待していたのか。きっとセッ⚪︎スではない。このまま1人で家に帰りたくなかったのだろう。その結果、僕は彼女から即を得た。僕だからできた即だとは1mmも思わなかった。
 
彼女から告白された。本当に僕と付き合いたかったのか。答えはNoだろう。寂しさに付け込まれ見知らぬ男を家にあげたこと。その男と行きずりのセッ⚪︎スをしてしまったこと。そんな自分へのせめてもの言い訳として、僕と恋人関係になることを望んだ。ただそれだけの事である。
 
 
 
 
 
水商売の女性でもナンパに応じる。敬遠しがちな層ではあるが、彼女たちも一人の女性である。一見華やかな姿の裏で、実は心に深い闇を抱えているのかもしれない。