女性が身体を許すとき 〜言い訳を与える生き物たち〜

 
 
 
 
 
三宮駅で待ち合わせ。普段はアポまで時間調整の連絡しか取らない僕だが、今回は違った。毎日のように電話していた。彼女と話すのは楽しかった。1日15分程度で電話は止めるようにしていたが、早く彼女に会いたくて仕方なかった。僕は完全にオンリーワン中毒だった。
 
 
 
 
 
 
 
18:00僕が先に到着する。10分程遅れて彼女が到着する。真っ白なコート。ストレートだった髪は、今日は先だけ巻いてきているようだ。「久しぶり。あれ、顔変わった?良い意味で」僕はネグから入る。「なにそれ、やっぱりジェルくんは失礼ね」電話でコミュニケーションをとっていたので、お互いにあまり緊張していなかった。僕たちは店へ向かった。
 
 
 
 
 
 
 
ビールとカシスオレンジで乾杯。彼女の恋愛遍歴はある程度引き出していた。今日、僕がやるべき事はただひとつ。彼女の理想の男性を演じることだ。
 
 
 
 
 
 
 
僕はナンパした女性に必ず聞くことがある。どうして僕について来たのか。彼女は言った、「会ったことないタイプだったから」初めて言われた言葉だった。「それは喜んでいいのかな?」僕は尋ねた。「教えない。でも声掛けといて全然がっついてこないから、不思議な人はだなとは思ってる」僕はターゲットとなる女性に対して、他の女性の影をちらつかせるように意識している。それによりターゲットの女性は、誰かと競争しないと僕が簡単に手に入らない存在だと思うからだ。実際のところ僕は彼女にオンリーワン中毒だったが、結果的に余裕のある男を演じることができていた。「ねえ、ジェルくんはいつから彼女いないの?」彼女が徐々に前のめりになる。「彼女?いっぱいいるよ」質問をはぐらかす。女性の質問は基本的に真面目に答えるべきではない。見た目がクソ真面目なサラリーマンである僕は、適当過ぎるくらいの方がちょうど良い。その積み重ねが、結果的に女性のよく言う"ミステリアスな男"の像を創り上げる。気をつけなければならないのは、あまりにも自分の事を話さな過ぎると女性も答えてくれないという事だ。僕は質問には適当に答える代わりに、恋愛観や結婚について自分の考えをしっかり伝える。人と会話するのが苦手な僕は、通常これでアポの和みを乗り切っている。
 
 
 
 
 
 
 
店に入り2時間が過ぎた。次のステップへ移る。「俺、手相見れるんだ」彼女の手を握る。「えー、ほんとー」彼女は手を開いて見せた。本当は手相なんて見れない。適当な事を言っておく。そのまま手を繋ぐ。片手でビールを飲みながら、繋いだ手を少し強く握る。彼女も握り返す。IOIは十分だった。僕は切り出した「明日仕事だったね。遅くなると悪いからそろそろ出ようか」そういって僕は立ち上がる。彼女の家は歩いて行ける距離だった。「せっかくだから、散歩がてら家まで送るよ」「じゃあ近くまでお願い」僕たちは手を繋ぎ歩いた。家に近づくにつれ、心なしか彼女の歩みも遅くなっていった気がした。「そうだ。家の近くに公園があるの。ブランコ乗らない?」彼女は言った。僕は彼女がブランコに乗りたい訳ではない事を知っていた。僕は彼女に言った「ブランコより、もっと⚪︎⚪︎と話がしたい。2人になれるとこに行こう」彼女は黙って頷いた。彼女に軽くキスをする。もうお酒も買う必要ない。足早にホテルへ移動する。
 
 
 
 
 
 
 
ホテルに到着する。靴も脱がず、僕たちは舌を絡め合った。お互いシャワーも浴びずに行為に及んだ。準即。
 
 
 
僕はナンパで即や準即に及んだ女性に必ず聞くことがある。"いつからこうなると思ってた?"行為後、僕は彼女に問いかけた。彼女ははにかんだ笑顔で答えた「手を握られた時かな」
 
 
 
 
 
 
 
今回、僕はひとつ思った。女性の心を動かすのに言葉は非常に重要だ。ナンパ師たちはそれを理解している。ルーティーンもその為にある。計算された言葉が、彼女たちに"逃げ道"を与えている。その"逃げ道"の先にはセッ⚪︎スがある。"逃げ道"とはいわば、彼女たちのセッ⚪︎スを正当化する"言い訳"である。僕たちはそれを受け入れよう。では、逃げ道へ誘導するだけでセッ⚪︎スできるのか。それは決定打にはならないように思う。今回、彼女は言った「手を握られた時かな」と。最終的には彼女の身体に訴えなければならない。どんなに素敵な口説き文句をたくさん並べるより、一度肌が触れ合う事の方が性を意識させるために大きな役割を果たす。女性にも性欲はある。相手に触れたいのは決して僕たちだけではない。
 
 
 
 
 
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◾︎総評
 
今回の準即は僕のオーソドックスなパターンであった。和み方次第では、キスグダやホテルグダが発生する。なぜそれらがなかったか。前述の通り、彼女が手を繋いだ時点でセッ⚪︎スを意識したからだ。セッ⚪︎スを意識した女性とそうでない女性とでは、顕著に違いが現れる。目の潤み方、唇の乾き具合、手汗の量…。個人差はあるはずだが、その変化は非常に重要な判断材料になる。本心を言葉にしない女性たちに対し、男たちは言い訳を与え身体を重ねる。ある種のパズルを完成させたような感覚にも似ている。一時的に満たされた生き物たちは、また新たな対象を求め彷徨う。彼女たちはどうだろう。一見、男たちが意図したように誘導されている。でもそれを含め、彼女たちが仕掛けているゲームであったとしたら。本当のところは僕たちが知る由もない。