逆3と逆3 〜クラブナンパで見たナンパ師の資質〜

 
 
 
 
 
「ミナミでナンパしませんか?」
 
 
 
 
 
 
一人の男性からお誘いをいただいた。彼とは先日OWLで知り合った。
 

即と損切り 〜一人でクラブに来る女性の心理〜 

 

その日、彼もまた一人でOWLに来ていた。意気投合した僕たちは連絡先を交換した。彼から連絡があるとは思っていなかった。以下、彼をダイと呼ぶ。僕はダイの誘いに二つ返事で答えた。週末の金曜日、僕は仕事を早めに切り上げミナミへ向かった。

 
 
 
20:00 戎橋スタバ
 
僕が先に到着する。Evernoteのルーティーンを読み返し、シミュレーションする。「こんばんは、ジェルくん。今日はスーツかい」長身のナイスガイがそこにいた。立ち話もそこそこに店内へ移動する。簡単に自己紹介。彼とゆっくり話すのは初めてだった。カウンター席に座り、ホットコーヒーを片手に作戦会議を行う。彼は僕と同い年である。しかし、彼の人となりは僕のそれとは真逆だった。小さい頃から活発で、常に集団の先頭に立って生きてきた。彼はαメールそのものであった。また彼は頭も良かった。某国立大学を優秀な成績で卒業し、現在は大企業の営業マン。彼の発する言葉は、どこか人を魅了するものがあった。僕は頭が良いナンパ師ほど数多くのルーティーンを駆使し、あらゆるパターンに対応しているものだと思っていた。だが、どうやらそれは違うらしい。彼は特にこれといったルーティーンを持っていないようだった。ナンパでの会話はほとんどアドリブだという。彼の話は面白かった。なんとなく、彼にナンパされた女性が心を開くのが理解できた。僕は彼にナンパ師のなんたるかをみた気がした。
 
さて、彼と話してばかりもいられない。思い腰を上げ、僕たちは今日のフィールドへと向かった。
 
 
 
22:00 Club Bambi
 

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週末にしては人の入りは少なかった。男女比は6:4、まずまずか。ダイを見た。「俺はもう行ってもいいぜ」心強い言葉だった。僕たちはすぐさま声掛けを開始した。
 
 
 
1組目 ダイが声を掛ける。6と4のペア。ダイが6をオープンする。僕も4に声を掛ける。「薬指のネイル取れてるやん」「そうなの。そろそろ変えたいなって思ってるの」オープンした。22歳大学生。4月からアパレル企業に入社予定。大人しい子だった。あまり自分の事を話したがらない。いや、単に僕に興味がないのか。判断し兼ねた僕は、ネグを多めに使い和みを図った。4からの質問が増える。IOIだ。ふと、ダイを見た。ダイは6の腰に腕を回している。また6の女性もダイに体重を預けているようだった。これがダイの実力か。僕も負けていられない。「グラス空いてるじゃん。何かドリンク貰いに行く?」4に問いかける。「…うん」4はこちらを見ずに答えた。4はイチャつくダイと6を見ていた。羨ましそうな目で。彼女もダイにナンパされたかったのだろうか。頭をフル回転させたが、今の僕にはこの状況を挽回する力はなかった。「今日何時までいる?Bambiに飽きたら4人で飲みに行こうよ」かっこ悪い番ゲだった。連絡先を教えてもらった後、適当な理由をつけ僕はその場を離れた。ガンシカよりも悔しい結果だった。
 
 
 
5分後、6から番ゲしたダイと合流する。「すまない。上手く和めなかった」ダイは気にせず次に行こうと言った。再びターゲットを探す。
 
 
 
2組目 ギャル3人組。おいおい、そこに行くのかダイ。必然的に片方は逆3になる。ダイは自らその役を買って出た。「お姉さんたち、背の順で並んでるの?それとも髪の毛明るい順?」ダイが2人の肩に手を回しながら声を掛ける。オープンした。僕は残りの1人に声を掛ける。「お姉さん美容室行ったばかりでしょ」「そう、昨日行って来たの。何でわかったの?」「そのパッツン具合を見ればわかるよ」彼女は手で前髪を隠し、もう片方の手で僕の肩を叩く。オープンした。21歳大学生。レベルは5。3人は高校時代の同級生だった。音が大きかったため5と近い距離で和む。恋愛遍歴を聞く。見た目とは違い、異性交遊は決して派手なものではなかった。恋愛トークで盛り上がる。「でもね、彼氏がいるの」申し訳なさそうに彼女は言った。でもそんなことはナンパを止める理由にはならない。「俺も彼氏いるよ」彼女は笑った。「何それ」彼氏がいる発言は、むしろチャンスと捉えなくてはならない。僕は余裕のある態度を貫いた。さて、どうする。僕はダイにサインを送る。放流のサインだ。僕は番ゲにシフトする。「もっとゆっくり話したいな。今度2人で飲もうよ」「彼氏に怒られちゃうよ」「じゃあ彼氏も呼ぼう」「絶対無理だし」「じゃあ2人で決まりだね。来週の金曜は?」彼女は頷く。アポを取り付けナンバークローズ。その場を後にした。
 
 
 
3組目 3と6のペア。今度は僕が6に声を掛ける。「ひょっとして俺と同んなじの飲んでる?」驚いたような表情を見せる6。すぐに僕から目を逸らす。「待って、目が充血してたから気になったんだ。だいぶ飲んでるんじゃない?」身体を反対に向けられる。iPhoneを扱はじめる。クラブでその反応はキツイぜ。次。
 
 
 
4組目、5組目 共に反応はイマイチ。ダイは5組目の女性と和んでいたが、僕が水をさす結果となってしまう。
 
 
 
 
 
「ジェルくん」
 
 
 
ダイが僕を呼んだ。ロッカー前で緊急ミーティング。「女性に媚び過ぎていないか?もちろん、そんなつもりはないだろうが、俺にはそう映る。それでは女性は魅了できないし、即もできない」ダイはストレートに言った。僕の和みの会話はダイにはほとんど聞こえていないだろう。何を見てダイはそう言ったのか。きっと僕の立ち振る舞いだろう。僕はいわゆる"間接法"を使ってアプローチし、丁寧に和む事を意識していた。理屈では間違いではない。でも実際は、客観的に見た僕は自信のないただのAFCだったようだ。きっと女性たちの目にもそう映っていただろう。当惑する僕にダイは続けた。「例えば2組目。即できたのではないか?君の目的がアドレス帳を増やす事なら何も文句はない。ただ、あの番ゲは逃げではないか?」とても耳が痛かった。僕は番ゲする事で、僕のナンパ師としての最低限の体裁を守ろうとしていた。ダイにショボ腕だと思われたくなかったために。ダイは続けた。「今日俺はここから即をする。一緒に即をしよう」ダイの言葉から強い意志が感じられた。僕はダイに問う「僕に足りないものはわかった。どうすれば短時間で変われる?」ダイは答える「ひたすら逆3してみるんだ。嫌でも自信がつくから」怖かった。でも逃げたくなかった。居心地の悪い環境に身を置いてみよう。ダイに背中を押され僕は声を掛け続けた。
 
 
 
 
 
 
 
4組に逆3した。2人同時に和むのがこんなに難しいとは。「ちょっとトイレに行くね」「飲み物買ってくるね」彼女たちの優しい嘘。その優しさにまた傷つく。それすら気にならなくなればナンパは上達するのかー
 
ふと、前に女のペア。僕は自然に身体が動いた。「そろそろ疲れたっしょ」「疲れたー、でも楽しかったー」オープンした。レベルは4と6。2人とも24歳。4はアパレル、6はフリーター。「ちょっと向こうで話そうよ」ダンスフロアを抜け比較的静かな場所へ移る。3人で会話する。6をネグし、4をオーバーに褒める。食いつきは2人とも良かった。4は近所に住んでいた。6は4の家に泊まるようだ。フロアが明るくなっていく。営業終了の合図だった。「今度一緒に遊ぼうよ」4からLINEを聞かれる。2人とLINEを交換した。ロッカールームで彼女たちと別れる。ダイから着信がある。すぐ近くにいた。ダイは女性を連れていた。「ジェルくん、さっきよりも良い顔してるよ。今日は偉そうな事ばかり言ってすまないね」「いいんだ。むしろ色んな気づきを得られたよ。ありがとう」僕たちは握手をしBambiを後にした。
 
 
 
 
 
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◾︎結果:4番ゲ
 
◾︎総評
 
ナンパがわからなくなった。様々なルーティーンで武装し、偽物の自分を演じる。根拠のない自信でも構わない。最後までそれを突き通す。頭ではわかっていた。難しくしているのは自分自身だった。ダイは彼なりの理論で僕にそれを教えてくれた。彼と僕の違いは、ナンパをシンプルに捉えているか複雑化しているか。彼の振る舞いは、おそらく無意識だろう。彼の言動は人を惹きつける。人たらしという言葉が適当か。ひとつ確かな事がある。彼は僕より何段も上のステージにいる。僕は彼と同じステージに立つことはできないかもしれない。それでも僕はナンパを突き詰めたい。ダイとのコンビナンパを通じて強くそう思った。だから僕は今日も街へ出る。